番組制作の流れ
私たちの仕事は、台本に書かれた文字の世界観を実際のセットに落とし込み、道具の調達から飾りを通して、その世界観を具現化して行く仕事です。小道具とは言っても、その扱い品目は多岐にわたります。大きい物では棚や机・ソファなどの家具類から、冷蔵庫・電子レンジなどの家電類、テレビやパソコン、電飾や各種小物類の他、鉛筆一本からゴミに至るまで、部屋の中にあるありとあらゆる物全てが小道具の範疇と言っても過言ではありません。
ここでは、ドラマの作品作りを通して《小道具・装飾》の仕事の流れをご紹介しています。多少の違いはありますが、バラエティの流れも基本的には変わりありません。
台本を読む
まずは、制作から台本が届きます。
番組内容などを考慮した上で担当者が決まります。
担当者は、その作品がどのような内容なのかを確認しながら台本を読み込みます。
例えば・・・
一回目は、「全体の流れ(ストーリー)を読む」
二回目は、「物語の本筋(テーマ)を読む」
三回目は、「小道具の飾りを想像(イメージ)して読む」
美打ち(美術打ち合わせ)
制作・技術・美術の各セクション、主要スタッフによる打ち合わせです。連続ドラマの場合、基本的には話数ごとに行われています。美術スタッフ(美術プロデュース・デザイン・美術進行・大道具・装飾・持道具・衣裳・メイクなど)と技術スタッフ(技術プロデュース・カメラ・音声・照明など)が、制作スタッフ(プロデュース・監督・助監督・制作など)と台本に沿った打ち合わせを行います。監督のイメージをスタッフ全員で共有し、実現性を含めてひとつひとつ話し合いながら物事を決めて行く、最も基礎となる大事な打ち合わせです。ここで疑問に思った事の確認やアイデアの提案をします。
ロケハン(ロケーション・ハンティング)
ロケ場所の下見の事です。ドラマの場合、スタジオでのセット収録の他に、ロケでの収録がある場合がほとんどです。例えば、街中などオープンでの収録・実際のお店や会社などをお借りしての収録・マンションなどの空き物件を飾り込んでの収録・ハウススタジオでの収録などがありますが、ロケハンでは、その場所でロケを行う場合、何を?どうすれば?設定に合わせたロケが出来るのかを下見します。街中では映ってはいけない物を隠したり、お店では商品を飾り替えたり、空き物件では室内の採寸から飾りのプランまでを考える必要があり、カメラ(スマホ)・メジャー・ノート・筆記具はロケハンの必需品です。
セット発注(図面発注)
セットを作る上でのスタート地点です。主要な美術スタッフ(美術プロデュース・デザイン・美術進行・大道具・装飾・建具・アクリル装飾・電飾・生花装飾・植木装飾など)が一堂に会し、デザイナーからの発注を受ける重要な打ち合わせです。セット図面(平面図・立面図・パース画など)を基に大道具から発注を進めていきますが、その過程で、大道具の作り・寸法・色味・質感・テイストなどを把握し小道具の飾りをイメージしていきます。大道具の次は装飾の発注です。図面の中に棚や机など大物の配置は描かれていますが、より具体的にデザイナーと飾りのイメージを固めていきます。
附帳(発注書)の作成
ロケハンの結果やセット発注の図面、自分なりに調べた各種資料を基に、ロケやセットに必要な小道具を一点一点書き出していきます。セットを立体的に描いたパース画などがある場合もありますが、基本的には図面という「平面」を自分の頭の中で「立体」に立ち上げ、その中に必要な小道具を「文字」にしていく作業です。場合によっては俯瞰図やイラストを描き、更に飾りのイメージを固めていきます。附帳の中に自分のイメージを落とし込む事によりセットの世界観を作っていく、装飾の仕事の中でも大きなウエイトを占める一番の悩みどころですが、最も重要な作業のひとつです。
道具発注(高津・藤浪)
書き終わった附帳を基に、小道具会社(高津装飾美術株式会社・藤浪小道具株式会社)の担当者へ発注します。附帳には、なるべく詳しく分かりやすく(家具ならば、サイズ・色味・材質・名称・個数など)道具の詳細を書きますが、発注時には、自分が使いたい道具のイメージを一点一点説明しながら在庫の有無などを含めて確認していきます。倉庫を回りイメージに合う道具を探したり、台帳やウェブカタログから探す場合もあります。その他、小道具会社の取り扱い品目に無い場合は、他のレンタル会社へ発注するケースや、タイアップ会社を通したり、直接、メーカーよりタイアップを取る場合もあります。
消え物(飲食物)の発注
食事のシーンなど、芝居の中で飲み食いする物の事を「消え物」といいます。何故「消え物」なのかというと、読んで字の如く、飲んだり食べたりすると消えて無くなるからです。台本に食事内容の設定がある場合や監督からの指定がある場合はそのメニューを、それ以外の場合は自分たちで考えたメニューをフードコーディネーターなどに発注します。シーンの内容や役者・監督などを考慮しNG分を含めた回数分を発注します。仮に装飾のチーム編成が4~5名だった場合、通常は3サブ(3番手)が消え物担当になる事が多いです。因みに花瓶などを割るお芝居があった場合、その花瓶は「消え物」となります。
買い物・作り物
役道具(芝居の中で実際に使用する道具)や飾り小物など、小道具会社に無かった場合には、番組予算を考慮した上で購入・借用を検討します。装飾担当者は「この店にはこんな物を置いている」・「あの店ではこんな物が買える」といった目線で絶えずアンテナを張っておく事が必要です。作り物に関しては、幼稚園や小学校にある工作・水彩画・習字など、居酒屋の手書きメニューや貼り紙などの手作り品があります。その他としてはスポンサー関係や著作権上、架空の物を作らなければならない場合の印刷物などです。印刷物に関しては、社内でも『デザインワークス』という工房が稼働しています。
道具搬入(高津・藤浪)
小道具会社に発注した道具類の数々が一斉に搬入されます。トラックの荷下ろしから台車への積み込み、倉庫やスタジオ前への運搬など、セットを飾る前の大仕事です。又、搬入時の台車への道具の積み方に関しては、装飾担当者の腕の見せ所でもあります。その他、搬入された道具類に漏れなどがないか、大物を中心に一点一点確認する事も必要です。並行してタイアップ品やその他借用品の搬入もある為、慌ただしい一日となります。
洗い物(食器類)
食事のシーンなど「消え物」に使用する食器を洗っておきます。NG分を含めた枚数が必要となる為、揃いの食器を集めるのも一苦労です。レストランなどのセットが出た場合、消え物室(厨房)は戦場となります。他にはウイスキーや日本酒、ワインやシャンパンなど、ダミーのお酒を用意し中身を入れ替えるのも装飾の仕事です。乾き物やお菓子などを用意するのも同様で、上記のように作り物のパッケージを製作する場合もあります。
セット(スタジオ)飾り
大道具の建て込み、背景の汚し(エイジング)が終わったら、いよいよ装飾の飾りとなります。搬入された道具類をスタジオに運び込み、打ち合わせ通り大物の家具類からセットに飾っていきます。装飾担当者により十人十色、セットへのイメージも異なり、様々な個性が表現されていきます。飾りの状況や内容により、稀に徹夜作業になる事もありますが、ドラマの世界観を左右するセットを作り出す、ここ一番の頑張りどころです。
スタジオ収録前
新規セットの飾りも無事に終了し、スタジオ収録日の朝となりました。通常より早めに来た監督やデザイナーのチェックも無事OKとなり一安心です。収録前には、テーブルや椅子など飾った道具類の拭き掃除や床の掃き掃除をして、役者に気持ち良く芝居をしてもらえるよう準備をします。当日、本番に必要な「役道具」や「消え物」のスタンバイもしておきます。割り本(監督のカット割り)が出た場合は、その内容もチェックします。
スタジオ本番中(立ち会い・操作)
スムーズに収録するために、シーンごとのリハーサルを何回か行います。
- 1. ドライリハーサル
セットの中で芝居をしてもらい、監督の演技指導の下、繰り返すことで芝居や動きを固めていく。その動きの中で役道具もチェックします。ここで追加発注が出ることが多く、役者の動きや監督の言葉に集中します。 - 2. カメラリハーサル
文字通り、カメラを通したリハーサルです。モニターを見ながらおかしなところがないかチェックします。現場に近いモニターで、役者の動きだけではなく、背景や周りの小道具もチェックします。 - 3. ランスルー
カメラを回さずに、本番と同じように行うリハーサルです。カメラを回しての「テスト本番」を行う場合もあります。 - 4. 本番
リハーサルでチェックした項目を完璧にこなすため、納得するまで何度もリテイクする場合もあります。
※それぞれの間には、美術・照明・カメラなどの各セクションの「なおし(修正)」の時間があります。カメラポジションによっては、セットの小道具を「わらう(セットから外す)」作業もあります。
セットバラシ(撤収)
撮影終了したセットは、次のセットを建てるためにバラします。セットを撤収することを「バラシ」と言います。飾りの時とは反対で、装飾→大道具の順番でバラしていきます。レギュラーセットの場合は、小道具を専用台車に積んで決まりの倉庫へ運びます。一回限りの単発セットの場合は、小道具会社へ搬出します。本番の合間を見計らって、バラせる物はどんどんバラしていきます。次週のために倉庫の整理整頓も大事な仕事です。
局によって異なりますが、連続ドラマのメインセットの場合は、1クールの間、スタジオ内に建てっぱなしのことが多いです。
お疲れ様でした!
今日も一日事故もなく、無事に撮影終了!
何もなければ帰れますが、翌日のスタンバイや飾りをする場合もあります。
後は、オンエアーを待つばかりです!
以上が基本的な《小道具・装飾》の仕事内容です。
ロケの場合は、また少し違った動きとなります。
ワンシーンを撮るためには、想像以上の時間と労力を要します。
番組制作は、スタッフひとりひとりの「知力」と「体力」、そして「想像力」の結晶なのです。
やり遂げた時の
「充実感」・「達成感」・「連帯感」は
最高です!
Design Works(デザインワークス)について
テレフィットには、DesignWorksという作り物専門の部署があります。
主にパソコンでのデータ作製や印刷物の出力を担当しており、大判プリンターを使用したポスターをはじめチラシや新聞記事などの作製、のぼり旗なども作っています。
スポンサーなどの関係で実在する商品を使えない場合や、劇中の設定で登場する架空の雑誌や記事などに対応した大事な小道具として、ありとあらゆる物を作りテレビの画面に登場します。
拘って制作した完成品のクオリティは高く、本当にある物と勘違いする役者さんもいたりします。
これらの作り物は近年その重要度が増しており、背景としての雰囲気作りだけではなく、物語の中で重要な小道具としての役目を果たす事も多く、2019年より本社内に専門の部署として立ち上げ活躍の場を広げています。
ギャラリー
こぼれ話 (kobore hanashi)
こぼれ話 その一
かなり前の話ですが、私が担当しました2時間ドラマで
台本には ’駅前の道を男性がベビーカーを押しながら歩いてくると交番前で立ち止まり、おまわりさんに道を尋ねる’とある。
デレクター曰く、「どこか交番を建てれる東急田園都市線の駅はないか探して欲しい」と、、。
それから2週間後のロケ前日のある駅前、いわゆる交番の建て込みの日に、開始から2時間もするとほぼ交番の形が出来上がってきた頃
その前を通る人の何人もが『あら、交番出来るんだ?」「交番だわ、よかった」「この辺何もなかったので交番が欲しかったのよ」などと
しまいには、駅長さんらしい人まで駆けつけて「交番ですよね」と、、、こちらは思わず「すみません、ドラマの撮影なんですけど、、、」
と言うと、駅長さんは落胆をして「あ~そうなんですか、、、、」 ガッカリしながら戻っていくことに、
この時ばかりは、一日限りのセットとは言え騙しているような気持ちになりました。
次の日の収録後、1時間30分くらいで更地になってしまいましたが、このあたりの人達にはドラマよりも交番が気になっていたようで、、、
な ん と も 。。。